家族ケア/ケアリング理論(Family Care/Caring Theory,FC2T)は,“家族看護学研究者・実践者の法橋(2013年)が提唱者であり,看護職者と家族システムユニットとの関係で生じる看護現象と家族現象を説明し,他己実現とともにある自己実現(他己自己実現)を助け,家族ケア/ケアリング関係の確立過程に焦点化した家族看護中範囲理論”である.
看護職者と家族の間で生じる現象を立体視化,構造化したものが家族ケア/ケアリング理論の概念図である.家族ケア/ケアリングの場として,2つの横軸(構造的距離と機能的距離),1つの縦軸(時間的距離)で形成される3次元論理空間を家族同心球環境理論の概念図の中に設定し,互恵的関心の形成環境となる.論理空間とは,物の見方を体現した想像上の空間である.この3次元空間は,時間と空間を同列に扱っているため3次元時空間ともいう.この互恵的関心の形成環境において,関心の対象となるターゲットファミリーに家族インターベンションを行うことが家族ケアである.そして,家族がその家族らしいライフが実現できるように支援するのが家族ケアリングである.
家族ケア/ケアリング理論の概念図では,ある時点での看護職者と家族の関係を記述する共時的な視点,家族を時間的変化・変容にしたがって記述する通時的な視点が必要である.家族ケア/ケアリング理論の概念図では,時間軸に対して水平に説明する通時的,時間軸に対して垂直に説明する共時的な2つの視座でモデルを説明している.
構造的距離と機能的距離を座標軸とした通時的な2次元平面でみると,看護職者が家族を“ケア/ケアリングをする”,逆に看護職者が家族から“ケア/ケアリングをされる”という円環的な交互作用が繰り返される.この2次元平面でみると,家族ケア/ケアリングは同心円構造をしており,この円環的な交互作用によって,時間経過とともに看護職者と家族の間の構造的距離と機能的距離が漸次近接し,相互信頼が深化することで適度な距離を保つ.適度な距離とは,互恵的関心を形成し,看護職者と家族の交互関係を構築できる距離であり,その距離が近すぎたり,逆に遠すぎると,家族ケア/ケアリングは成立しない.この適切な距離は,家族ケア/ケアリングのフィードバック作用で調整されている.
さらに,これに時間的距離を加えて形成される通時的な3次元時空間でみると,家族ケア/ケアリングの同心円構造を立体視でき,家族ケア/ケアリングは螺旋状構造をしている.看護職者と家族の間の円環的な交互作用を繰り返す時間軸の中で,看護職者と家族との構造的距離と機能的距離が漸次近接し,構造的距離と機能的距離が適度に保たれる.これによって,看護職者からみた他己実現(家族システムユニットの自己実現)が達成できる.そして,これが家族ケア/ケアリングをする看護職者に影響し,看護職者の自己実現につながる.このプロセスにより,他己実現と自己実現の両者が実現することで,ターゲットファミリーと看護職者との間の家族ケア/ケアリング関係が強化され,確立に至る.家族支援は,家族ケア/ケアリング,家族ヒーリング,家族スピリチュアリティ支援で構成され,これらを統合することで家族ウェルビーイングが実現できる.
法橋尚宏